人智を越えた、驚きの栽培法!
すでに受け入れられて、いつものように歓迎してくれた彼らに、正直にすべてを話しました。
「だから言っただろ、できないよって。黒ガリンガルは山の神様の贈り物なんだよ。たとえできたとしても、この地域で採れたもの以外はホンモノの黒ガリンガルじゃない。だって山の神様の贈り物じゃないんだから」と、口々に言われました。
そして、どうしてそんなに黒ガリンガルが欲しいのか、もう一度尋ねられました。
日本の高齢化と少子化の事情を説明すると、彼らの間に大きな衝撃が走ったようでした。
彼ら秘境地帯に暮らす彼らにとって、日本は素晴らしい先進国というイメージしかなく、自分たちには想像できないくらいお金持ちで、みんな豊かだと思っていたのです。思いもよらなかった日本の現状を聞いて、ただ驚くばかり。山の神様の恩恵を受けてきた村人たちに、日本でも、いや少子高齢化の先陣を切る日本にこそ、奇跡の植物黒ガリンガルが必要なのだと伝わったのです。
ついに彼らは、自分たちの黒ガリンガルの畑へと、連れていってくれました。
畑?──想像してたものとまったく違った光景が広がっていました。一見して畑らしいものがないのです。雑草は伸び放題。人手のはいってない山の中と何も変わらない。足元をすくわれた思いでした。自分が栽培しようとした、手入れの行き届いたオーガニック農園と、何もかもが違っていました。
彼らが、ホンモノだ、という黒ガリンガルは、農薬はもちろんのこと、肥料もいっさい使用せず、雑草の手入れも水やりもしない、まさにこの地域に自生する、野生黒ガリンガルとほとんど変わらない状態で育てられていたのです。しかも、一度収穫すると、黒ガリンガルはその土地のパワーをすべて吸い上げてしまうため5年間はその土地を休ませないとはいけないといいます。
人間の知恵なんて、大自然の前には遠く及ばない。1200年以上脈々と受け継がれてきた、経験の集積の前では、個人の知識の力など、ないに等しい。と思い知らされました。
そして、彼らに頼んだのです。
「この最高の黒ガリンガルを必要としている人たちのために作ってくれませんか?」と。
放ったらかしといってもいい自然農法による、野生種に限りなく近い黒ガリンガルを、自分のために、いや、必要としている日本の人たちのために、ぜひとも作って欲しい──心からの懇願でした。
もう、おわかりですね。数年にもおよぶ秘境詣でで、勝ち取った信頼関係。門外不出の黒ガリンガルを、誰にも与えたことがない黒ガリンガルを、神様の許可を得て、一度持ち出しているのです。すでに全面的に受け入れているのです。
そして、秘境の民人とて、子や孫は可愛い。子供たち・孫たちを良い学校に行かせたい、と思っています。きちんと字が読めて書けるようになって欲しいと願っています。教育を受けて、良い生活をして欲しいと望んでいます。
日本の人たちが必要としている、ホンモノの黒ガリンガルを、作ってくれるのなら、それはあなたたちの生活の糧にもなる。子供に教育を受けさせるチャンスを与え、大人になったとき、山の神様からの贈り物に、心の底から感謝する日がくるに違いない。こういった、いい関係が築けませんか?
そういう申し出に、彼らは日焼けした顔に優しい満面の笑みを浮かべて、応えてくれました。
「あなたならいいよ。一緒にやれると思う。」
見果てぬ夢を追い続けた、情熱と行動力が、願いを叶えたのです。